
上の写真の真ん中に通っているのがカミミチだ。この先には与那国島の聖地の一つで「ティンダバナ」という、石灰岩の断崖がある。写真の右手に見える祠は御嶽だ。昔、ティンダバナの上にあった島仲集落の人々が、水不足にみまわれて、このあたりに移住してきた際、つくられたものだという。

ティンダバナからは、祖納という最も大きな集落を一望できる。

カミミチを反対側から見たのが上の写真で、突き当りには民家の門と玄関が写っている。カミミチの延長線から微妙にずれているのは、わざとそのように建てたからだ。ドンピシャだと「畏れ多い」ということらしい。カミミチのことを教えてくれたのは、この家の住人であるTさんだ。
Tさんは与那国生まれの与那国育ちで、男性なのだが「カンダーリ」にかかったことがある。これは一種の巫病(ふびょう)で、沖縄のユタや東北のイタコといった呪術者(シャーマン)が、通過儀礼的に経験する特殊な精神・身体状態のことだ。多くは非常な苦痛を伴う。
Tさんも2年間カンダーリに苦しんだ。すでに結婚して家庭を持っていたというから、おそらく30歳代だ。毎晩、わけのわからない影のようなものに襲われ、甲冑姿の武者に首を絞められたこともある。車を運転していると、気づかないうちに海へ突っこもうとしていることがあるため、老人介護施設での送迎の仕事は辞めた。他の事務的な仕事に就いても、いざ処理をしようとしたとたん、書類の文字が消えたりする。あきらめると現れる。
カンダーリの間、Tさんは赤黒い模様が全身に浮かび上がって、白い膿(?)が噴水のように噴きだすことがあった。『もののけ姫』のアシタカに、そっくりだったという。強い痒みもある。それは必ず右肘の内側から始まった。数日に1度の頻度でそういうことが続き、仕事ができないストレスもあって、自殺も考えたという。
職場の上司はもちろん、母親でさえTさんの苦しみを理解してはくれなかった。もちろん医者は普通の軟膏を渡すだけ。しかし人の死を予言すると当たるようなことが何度か続き、ようやく母親は半信半疑くらいになってくれた。そして、もう少し理解のあった伯母に薦められ、与那国中の御嶽を巡っているうちに、カンダーリは治まったという。その後は予言能力を失った。

なんとも、すさまじい話だ。与那国に限らず、沖縄方面へ行くと、僕はたいてい、こういう人に出会ってしまう。サイエンスライターをしていようがいまいが、神様はおかまいなしだ。
【日記の最新記事】
この辺の話には昔から親しみがあります。
当時のノートを見返したくなるけれど、クラスメートにノートを貸したら
なくされてしまいました。この損失に、いまだ未練が残ります。
ノロ、ユタの貴重な話、細かくノートとったのに。。
白鴎大学の齋藤と申します。
琉球の民俗学を研究しております。
最近、奄美にてカミミチの存在に気づきました。
与那国にもあるということで、勉強になりました。
ありがとうございました。
授業で学生に見せたいので、写真をご提供いただく
ことはできませんでしょうか?
ご高配賜れれば幸甚に存じます。
コメントいただき、ありがとうございます。私の写真に興味を持っていただき、うれしく思います。大学の授業であれば、ご自由にお使いください。お気づきかもしれませんが、ブログ文中の小さな写真はクリックすると大きな画像が出てきます。それをダウンロードしていただければ、よろしいかと思います。よろしくお願い致します。
藤崎