2017年09月11日

『螢女』聖地巡礼ツアー

週末、色々とご縁があって、今や絶版となっている拙著『螢女』のロケ地を約15年ぶりに巡ってきました。参加者は僕を含めて総勢3人です(笑)。あの物語に登場する「民宿」にも今回、初めて宿泊しました。すると驚くべきことが、わかりました。まず、その宿のご主人は(もちろん初めて会うわけですが)、物語中「刈場修造」という名前で登場する民宿の主人に(僕の頭の中では)そっくりでした。名前こそ異なりますが「2代目」というところも同じで、刈場と同様、薪割りを日常業務の一つにしています。さらに、そのご主人は『螢女』を読んでくれており、一緒に読んだ近所のお仲間5人とともに、大きな衝撃を受けたと言います。どうしてでしょうか?

もし本をお持ちの方は読み返していただきたいと思いますが、物語には主人公が幼いころに親しくしていた「澄子」という少女が登場します。彼女の家は「オーサキ」という一種の妖怪に取り憑かれて凋落し、澄子自身も不幸な運命をたどることになります。もちろん100%フィクションとして書きました。ところが宿のご主人の話では、かつて実際に「オーサキ憑き」の家が近所にあって、そこに澄子という名前の娘がいたというのです。物語の中でと同様「澄ちゃん」と呼ばれていたようです。15年の月日を経て、それを知った僕にとっても衝撃的でした。もっとも現実に存在した澄子さんは、物語の少女のように早世することはなく、70歳くらいまでは生きていたということです。

聞けば、その土地には今でもオーサキに憑かれた経験をもつ人がご存命なのだそうです。そして憑きものを「祓う」役目をしていた巫女のようなお婆さんも、つい最近まで活躍しており、宿のご主人はお祓いの様子を見たことがあるようでした(神楽鈴のような道具を使うのだとか)。どこかの山奥深くの話ではありません。都会から2時間ほどで行ける、どこにでもあるような山里です。100年前の『遠野物語』でもありません。まさに「これはこれ目前の出来事」であり、「願はくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ」という言葉が新鮮に聞こえてきます。こうして自分で書いていても、ちょっと背筋が寒くなるようです。

宿から近くの山に分け入って数時間歩くと、『螢女』では「クマノタワ」と呼ばれている不思議な雰囲気の場所に出ます。以下は、その時に撮った写真です。天気にも恵まれ、非常に気持ちのいいハイキングになりました。

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……という具合で、苔むした森の緑がとても美しい。

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岩の上をコブラのような樹が這っている。

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森の中に突然、開けた窪地が広がる。ここが神殺し伝説のあるクマノタワ(現実の地名とは異なります)。

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クマノタワの「主」とも思える大木。

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大木自体は立ち枯れているものの、太枝の上からは次世代の芽がふいている。

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根元には立派なサルノコシカケが。

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これは別の樹の切り株から出た蘖(ひこばえ)。

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天然のオブジェ――森は天才アーティストだ。

posted by 藤崎慎吾 at 13:05| Comment(3) | 日記
この記事へのコメント
何か運命的な15年目の邂逅でしたね!
それにしても何たる一致。まだ読んでいないので、楽しみです。

ところで、昨日、リハビリ病院から退院しました。自宅まで杖をついて、歩いて帰りました。
倍の時間がかかったけど。

自宅内で早速よろけて、麻痺側の腕を身体の下に^^;
湿布を貼りました(笑)

夕刻、すぐ近くの喫茶店に行って珈琲。
美味し買ったなあ〜!
とはいえ、クタクタの二日間でした。
Posted by take at 2017年09月15日 20:16
不思議な話ですね、きっと藤崎先生が気づかない内に自然からの何らかのメッセージが届いて結果的に事実に基づいた物語になったのではないでしょうか?
偶然ではなく、何らかの意思のもとに必然として書かれた物語、そう思って読むとまた違った世界が見えるかもしれません。
この本の文庫版の解説は長沼毅先生が物語の舞台となった山を登りながら生物学者らしい観点から書いていらっしゃいますよね、地名も山の名前も架空の名称の様ですが埼玉近郊ですか?
写真を見ている内にこの民宿に泊まり、クマノタワを散策したくなりました。
森林ネットワークの一部でも感じられたら嬉しいのですが・・・!!
Posted by Mくん at 2017年09月15日 21:41
takeさん、退院おめでとうございます! ちゃんと目標も完遂されて、充実感を味わわれたことでしょう。コーヒーが美味しかったというお気持、よくわかります。お酒の解禁が待ち遠しいですね。

Mさん、実は少なからぬ作家が小説を「書いている」というよりは「書かされている」と感じています。私もその一人です。誰に? わかりません。ただ『螢女』の場合は、あの「場所」なんだろうと今になって確信しています。知る人ぞ知る、というような場所ですが、行ってみたいですか? もし何人かそういう方がいらしたら、またツアーをやってみてもいいかなと思っています。ただハイキングコースとしては、ちょっとキツめです。宿は素晴らしいです。
Posted by 藤崎慎吾 at 2017年09月15日 23:30
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