2017年05月28日

『風待町医院 異星人科』第一話冒頭

連作短編集『風待町医院 異星人科』が、6月17日ごろ光文社から刊行される予定です。全部で5編が収録されていますが、各話の冒頭部分を不定期に紹介していきたいと思います。

まずは第一話「五月の海と、見えない漂着物」です。
 太陽の雫が水平線へと滴り落ちていった時、一〇歳だった僕は小さな砂浜で「宝探し」をしていた。 大人になった今と同じ知識があれば、その雫を「火球」だと判断したかもしれない。少なくとも、やけに明るい流星だと思ったことだろう。
 しかし当時の僕には、太陽の一部がこぼれ落ちたようにしか見えなかった。それくらい、ぎらぎらと輝いていた。何しろ足元にばかり向けられていた僕の目を、強引に空まで引きずり上げたくらいなのだ。
 どーん、という低い音が響いてきたような気もする。それが記憶ちがいでなければ、たぶん衝撃波に伴うものだっただろう。
 その光り輝く物体は、しかし水平線に達することはなかった。途中で何度か明滅をくり返したかと思うと、ふいに消えてしまった。誰かがスイッチを、パチンと切ったみたいに−−。空には何の痕跡も残 っていなかった。

太陽と飛行機雲_Fotor.jpg
 幾度か目をこすった僕の頭に浮かんだのは、お決まりの「UFO」とか「空飛ぶ円盤」という言葉だった。幻を見たという発想は、なかったと思う。自分の感覚を疑う分別は、まだ持ち合わせていなかった。
 しばらく物体が消えたあたりを睨み、続いて空を何度も眺めまわした。太陽は素知らぬ顔で、初夏の港町を照らしている。
 砂浜に隣接した漁港に人影はなく、誰かが騷ぎだす様子もなかった。小さな波のつぶやきさえ耳につくほど静かだ。

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posted by 藤崎慎吾 at 17:14| Comment(2) | 日記